メンタルクリニックを転院した話

ただでさえ難しい/面倒くさい転院ですが、メンタルクリニックではそれが特にしんどいように思います。それは多分、普通のクリニックではしないような話……子供の頃からの話や、自分の醜い部分、嫌な部分の話、自分の洗いざらいを話しているからかもしれません。医師との関係が普通のクリニックとは違うからかもしれません。
私は初めて診察を受けたクリニックに15年ほど通い、その後転院しました。個人のクリニックから大きめの病院に転院し、そこから再び別の個人クリニックに移りました。新しいクリニックに通いはじめてからは2年と少しになります。
この記事では、私が転院した理由と転院の詳しい経緯を書こうと思います。
転院を考えている人や迷っている人、気になっている人に少しでも助けになれば嬉しいです。

0、転院までの私のステータス


私がメンタルクリニックに通い始めたのは今から15年と少し前。摂食障害(拒食)でのことでした。精神科や心療内科が市内のどこにあるかも全く分からなかったのですが、古い友達が少し前に同じ摂食障害で心療内科にかかっていたと教えてもらったので、その人から教えてもらう形で初診の予約を入れました。
この心療内科は予約専門のクリニックで、個人経営。先生は2人いて2人とも男性、どちらに当たるかは先生が内容を聞いて決める、ということでした。私を診た先生は女性を受け持つことが多く、じっくり話を聞いてくれるのが特徴でした。
話を聞いてくれる点では、多分他のクリニックより手厚かったと思います。初診は一時間くらいかけてもらい、その後薬が落ち着いても、少なくとも15分は必ず面談の時間をとってくれました。その点は嬉しかったです。
先生は白衣を着ておらず、机を挟んでの面談でカルテは手書き、威圧感はあまりない感じでした。雑談も多かったし、本やCDを貸してもらったこともありました。
先生の方針として、患者に病名をつけないというものがありました。もちろん診療報酬請求のために、カルテ上では何かの病名がついてはいるのですが、それが患者の主訴や先生の見立てとは違うというか、カルテ上ではこういう病名をつけておくけど、あなたはこの病気じゃないからね、というのは時々言われたことがありました。
もちろん、あなたの病気はこれこれですね、と言われたこともありません。これが良いことなのか悪いことなのか私は分からないのですが、私の場合初めは良くても後々不便な思いをしました。
このクリニックで診察を受けはじめた後、私はここの門前薬局のひとつに勤めはじめました。(門前薬局=クリニックのすぐそばにあり、そのクリニックからの患者さんの調剤を主に行う薬局。一軒だけの場合も、たくさんある場合もある)クリニックに患者として通いながら、仕事の上では同じクリニックの患者さんと接するということになります。これは転院するにあたって結構大きな要因になりました。
摂食障害で受診したクリニックでしたが、拒食はとりあえずおさまり、不眠が主な症状になってきました。また、摂食障害がおさまったすぐ後くらいに一時自傷をしていたことがあったのですが、これもある時期を境にだんだんおさまりました。自傷をはじめ、自分の身に起きていることは隠さず先生に話していたと思います。こんな感じで、15年ほど診察を受けていました。

1、転院を決めた経緯


色々あるので箇条書きにしてみます。

・「どうしてあげたらいいか分からない」と何度も言われ
月に一度の診察で、「最近どうですか」というところから始まるのですが、症状が落ち着いた頃になると、大きな困りごとは減って小さいことが主になってきました。このクリニックにかかっていた頃の私の困りごとのベースのひとつに「実家に二人暮らしで母親と離れられないこと」というのが大きくあって、話をしているといつもそのあたりでスタックしてしまう感じがありました。そのとき言われたのがこの言葉です。
「最近どうですか」と先生の方から聞いてくるのに、私が話すと「どうしてあげたらいいか分からない」「手の出しようがない」「朋さんはひとりぼっちで闇の中にいるような感じがする」と何度も言われました。その度に私は驚いたし軽く絶望もしました。私の困りごとはその頃の環境によることが多く、実家から出るのは全く現実的ではなかったので、確かにどうしようもなくはあったのですが、お医者さんがこんなばっさり手を離してしまうようなことを言うのか、こんなとりつくしまもないようなことを言うのかと、聞くたびに心がひどく沈みました。

・医者と患者という立場を越えた雑な交流
もともと雑談が多い診察で、本やCDを借りたりしたことがあったのですが、あるとき「多分好きだと思うから」と全然知らない漫画を何冊も貸され、「もし面白くなかったら捨てていいよ」と言われたことが何度かありました。それまでの長い診察歴での長い雑談で、私と先生の漫画の趣味は1ミリも被らないと分かっていると思っていたのですが、それにも関わらず物を貸し付けるという行為、しかも捨ててもいいって、ひょっとしていいように使われてる? ゴミ箱扱い? と思ったのを忘れられません。私は先生の友達じゃないんだけど……と思いました。

・差別主義者
これはX(Twitter)を始めてから思うようになったことなのですが、先生は結構な差別主義者でした。同性愛者差別、職業差別、学歴差別など。雑談の中で気づくこともありましたが、多くは薬局に筒抜けてくる裏話で聞くことが多かったです。
私の勤める薬局は先生の(そして私のかかっている)クリニックの門前薬局なので、薬局長やオーナーなどは先生と直接話す機会も多いです。そのときの雑談などを後から聞くと、これはちょっと……、ということが多くありました。
先生は私の母親くらいの歳なのですが、その年代のサブカル系というか、カルチャーに強い人でした。なので診察を受けはじめてすぐの頃などは、先生の話を聞けるだけで楽しいというか……、話が通じるだけで嬉しいみたいなところがありました。心酔していたんだと思います。その心酔が解けて、Xで色々な意見を見ていくにつれて、この人の言ってることってちょっと……、と思うようになってきました。私はたまたま4年生大学を出ていましたが、これが例えば短大だったら全然違う態度をされるだろうな、と気づいたときにぞっとしました。

・あなたの話は聞いてない
最初の頃は雑談をするのも楽しかったし、話が通じる人と話せる嬉しさ、年長の人に受け入れてもらっている嬉しさみたいなものもあったのですが、通院が長くなって話すこともなくなった頃には、雑談は本当にただの雑談になっていました。当然です。だったら普通に普通の雑談をすればいいし、雑談自体しなければいいと思うのですが、先生と話しているとどうしてだか先生の愚痴を聞いていることが多く、私は何をしにこのクリニックに来ているのかな……、ということがとても多かったです。マンスプレイニングされることも多くて、話がだんだん通じなくなってくる感じ、話を聞いてくれないな、と思うことも多くありました。患者なのは私のほうなのに、先生のメンタルケアをしに来たわけじゃないんだけどな、ということがどんどん増えてきました。
決定打となったのは薬局に来た患者さんのひと言です。その方はクリニックに来られてまだ間もなかったのですが、「転院しようと思っている」と言っていました。理由は「面談の中で、私の話を聞いてくれず、先生の話ばかり聞かされているような気がするから」。
私だけじゃなかったんだ、と思ったのをよく覚えています。この患者さんの言葉に(勝手にですが)背中を押されて、転院を決めました。

・病名を教えてくれない、患者が自分で学ぶことを嫌がる
これも薬局に来た患者さんの話を聞いていて思ったことです。このクリニックにかかっている患者さんは症状が比較的軽い方が多く、数カ月、長くても数年くらいで寛解していくのですが、そんな中10年以上かかっている自分のことがだんだん不安になってきました。うつが長引いているのか、ただの不眠症なのか、それにしてはメンタルの調子が悪いことが多いんだけど、自分の病気は一体何なんだろう。病名がないことは見通しがきかないことにつながります。教えてくれない先生に不信を抱きはじめました。
また、先生は患者が自分の病状や薬について調べるのをとても嫌っていました。なので私も自分の病状について調べることをあまりしてこなかったのですが、……さすがに10年にもなると、自分で自分のことを放っておくのもひどいと思いはじめました。
ちょうどその頃、大人の発達障害、(当時の言葉で)アスペルガーという概念を知りました。二次障害で不眠などがあることを知り、また自分にも計算障害があることに気づいたため、これに当てはまるのではないかと思いましたが、当然先生には言えませんでした。
ちなみにこのクリニックの専門はうつ、不安症、強迫障害、老人のメンタルケアなどで発達障害の患者さんはほとんどいない感じでした。先生の口から発達障害の言葉を聞いたのは、結局、最後の一回だけでした。

・自立支援を使わせてくれない
これがいちばん大きい転院の理由です。私の住んでいる県での自立支援は、私がクリニックにかかっている途中から施行が始まりました。制度があることは先生から聞いたのですが、そのときに言われたのが「朋さんはこんな制度使っちゃだめだよ。診療代が安くなると治そうとしなくなるからね」ということでした。当時はそんなもんかなと思っていたのですが、X(Twitter)で色々な人の意見を見ていると、これは患者の権利を奪われているのではないかと思うようになりました。同時に先生の考え方がひどいとも。
薬局で働いていると自立支援を使っている患者さんに接することもあったのですが、その多くはよそから転院してきた方で、もともと使っていた自立支援をそのまま使っていることがほとんどでした。先生が新しく自立支援を使わせてくれたという方はほぼいなかったように思いますし、使いたいと申し出ると怒られた、という話を聞いたこともありました。
先生からこの制度のことを言われたのは最初の一回と、転院を告げたときのことだけ。転院を引き止めるような感じで、いちばん最後にすごく嫌そうに「じゃあ自立支援使う?」と言われたのをよく覚えています。

2、転院を切り出す

転院を決めてから切り出すまでは短かったと思います。一応母親にも相談して、家族内で意見を統一してから先生に話すことにしました。
切り出し方って難しいイメージがあるし言いづらいことではあるのですが、私の場合転院したいという気持ちが本当に強くなっていて、はっきり言うと先生のこともちょっと信じられなくなってしまっていたので、半分は勢いで言ったみたいなところがあります。
診察に行って、先生とあれこれ話す前にいちばん最初に「思ったんですけど私のこれってうつじゃないですよね?」という感じで言いだしました。「発達障害だと思うんですけど、ここのクリニックじゃあまり受けてもらえないですよね」「診てもらえるところに移りたいんですけど」と、「ここではどうしても無理」なことを伝えて、じゃあ転院するしかないねーっていう流れになるようにしました。
先生はどうだっただろう……、驚いていたのかな? あまり覚えていませんが、色々言わず「分かったから」みたいな感じだったと思います。
このとき初めて、私がなんという病気なのかを教えてくれました。発達障害の二次障害による不眠と、小学生時代に受けたいじめからくるトラウマ、というのが私の病気だったようです。
……なんで教えてくれなかったのかなぁ……。うつが長く続いているというのと発達障害の二次障害は全然違うじゃないですか。私が転院とか言い出さなかったらずっと黙ってるつもりだったということですよね。それはどうなのかなぁ……、と聞きながら思っていました。
転院先ですが、私の住んでいる県には大きな精神科病院がふたつしかなく、そのうちひとつは大学病院で、もうひとつが入院設備のある精神科専門病院でした。私が転院を希望しているのは後者のほう。先生はその場で診断書を書くことと病院に連絡することを約束してくれました。

3、実際に転院する

専門病院の受付がちょっと特殊で、地域相談室みたいなところが受付になっています。そこで担当者さんをつけてもらって、転院の相談にのってもらう、という流れがあるようでした。先生が診察の後にすぐ電話してくれたらしく、その日のうちに電話がかかってきて、担当さんがつくことに。いちばん近い空いている日に予約を入れましたが、3ヶ月ほど先になってしまいました。

4、新しい病院で

転院した先の病院は、精神科専門の病院。初めて受診した日は紹介状を見てもらって、発達障害の検査を受けたいという話を聞いてもらいました。一応、どうして検査を受けたいのですか? と聞かれたのですが、計算障害があると思われること、両親(特に父親)にも発達障害の特性があると思われることなどを話して、じゃあ受けましょうとなった感じでした。
後日検査をしたのですが、発達障害の検査で一般的なWISCではなく、この病院独自の検査だったので、実は今でもちょっと不安です。ふたつ検査をしたのですが、そのうちのひとつはMBTIみたいだったし……。でも専門の病院で診てもらったので一応、特性があるということになりました。
その後は普通の病院と一緒です。担当の先生がついてくれて、薬の調整をやる、といういつもの診察が始まりました。自立支援もすぐに申請してもらえました。
ここですごく驚いたのは、いわゆる5分間診療みたいに診察時間は短いのに、前のクリニックで感じたような落ち込みや嫌な気分にならなかったことです。
普段は何とか気にせずやっていけていることも、改めてそれを気にしたり、言葉にしようとすれば、嫌な気分になったり気持ちが落ち込むということはあると思います。かさぶたになっているのをひっかいて痛みが出る、みたいな話でしょうか。
前のクリニックではそれが頻繁に起こっていました。最近どうですか? と聞かれると、普段気にせず過ごしていた辛さやもやもやについて話さなくてはならないため、診察が終わった後に気分が重くなっていたり、辛い気分になることが多かったです。
新しい病院では診察時間が短いので、最近どうでしたか? というふわっとした話ではなく、薬を変えてみて不具合はありませんか? みたいな具体的な話をしました。なので嫌な気分になることがほとんどなく、病院に行くのが嫌になることもありませんでした。
ただしこの病院、長いこと通わせてはくれませんでした。ずっと継続して通っていいのは、その病院に入院したことのある人だけ。私のような患者に対しては、次のかかりつけ医が決まるまでの間をつなぐ形で診察するとのことでした。1年ほど通ったのですが、途中で県内の精神科病院・クリニックの表を渡され、次にどこに行くか決めてね、と言われました。
ここの病院は受付から何からすべて専門のスタッフがいてくれるという安心があり、夜間の診察があったので仕事終わりに通うこともできて、とても行きやすくずっと通いたかったのですが、決まりなので仕方ありません。次のクリニックを決めて、予約をとりました。

5、新しいクリニックで


新しいクリニックへは紹介状を書いてもらい、無事に転院できそうでした。が、1回目の転院は実は失敗しています。行った先の先生とどうしても合わなくて……。
それが転院して2週間ほどでのことだったので、病院に連絡してもう1枚紹介状を書いてもらい、別のクリニックに行きました。これは今思っても適切な対応だったのかよく分かりません。1回別の病院に行ってしまった患者の紹介状をもう1回書いてもらうというのは……、2週間くらいという短い間だったからこそしてもらえた対応だったのかもしれません。でも、1回合わなかったくらいなら融通をきかせてくれそうなところでもあります。
2回目に行ったクリニックは、古い建物だけど先生が良くて、ここに通うことにしました。個人経営のクリニックで、女性の先生です。初回は1時間くらい時間をとってもらい、それから先は5分診察、2週間ごとくらいで通っています。
ここのクリニックでは「最近どうですか」と聞かれますが、「前回から今回までの間に何か変わったことはありましたか?」という意味なので、嫌な気分にならずにすみます。診察時間が短いのは分かっているので、言いたいことがあれば事前にまとめておくし、特に言うことがなければ5分くらい先生の質問に答えて、お薬を出してもらって終わりです。
ここでも自立支援は当たり前に使えました。通っている薬局のスタッフさんも優しい方ばかりで、現在私の通院はとても安定しています。

まとめ

始めにも書きましたが、転院って独特の難しさがあると思います。長く通っている所だと先生に恩を感じて、先生に悪いから転院できない……みたいな感情が出てくることもあります。
でも私は転院したいと思う人の背中を押したくてこの記事を書きました。転院したいな、という考えが頭をよぎるなら、それは今かかっているお医者さんが何か引っ掛かるということ。その引っ掛かりであったり、先生への不信感であったりを大切にしてほしいし、なかったことにしてほしくないと思います。
最近は心療内科が混んでいて、転院を決めてもすぐに移れないという現実があります。予約が平気で3ヶ月後とかになってしまう。思ったときにすぐ動けないからこそ、動きを始めるのは早いほうがいい。特に先生への不信感なんて、放っておいて改善することなんてあまりないと思います。どんどん不信感が大きくなって、先生と話すのもいやだ、みたいなことになる前に、勇気を出して言い出してみるといいと思います。
いちばん勇気がいるのは言い出すときだけです。転院するのに診断書が必要だったら、どうしても(不信感を抱いてしまった)先生に頼んで書いてもらわなければならない。そこだけは我慢しましょう。新しいクリニックに予約を入れたら3ヶ月先だった、その3ヶ月も申し訳ないけど我慢してもらわなきゃならない。でも、転院したら環境が変わります。私のように診断をつけてもらえたり、患者の権利を手にすることができるかもしれない。二週間に一回の診察が楽なものに変わるかもしれないんです。

わたしのように診断書をかいてもらう転院方法ではなく、もっと簡単な方法で転院した人もいます。それは次の予約をぶっちぎること。ぶっちぎるというか、次の予約を入れるのだけは入れておいて、適当な時期(予約した診察日の一週間前とか)に「都合がつかないので予約をキャンセルしたい。新しい予約日は都合がついたら連絡する」と言ってフェードアウトする方法です。この方法は念のために、先に新しいクリニックや病院に予約を入れておくと安心です。私の母はこの方法で転院しました。

ほんの少しの勇気で、変われることがあります。私はその一歩の、背中を押したいです。